砥石に向かって 滋賀県守山市・奥野節子(無職・60歳)
ショリショリショリ。指先に余計な力がかからないように、細心の注意を払いながら包丁を研ぐ。研ぎ上がったら刃先に軽く指を当て、仕上がり具合に満足したら、これから始まる料理というショーに立つ役者のように、心はわくわく感と少しの緊張感で引き締まる。
こうして包丁を研いで何十年になるだろうか。包丁は私の心の中をすべて知っている、古くからの友達である。
夫と衝突した時、娘とバトルがあった時、外で不快な思いをした時。それでも家族は時間がくればおなかをすかせる。
そんな時に私は1人台所で、家の者に背を向け、ショリショリと砥石(といし)に向かってきた。やがて魚はすっぱりと3枚になり、ダイコンやキャベツは小気味よくサクサクと切れ、糸のように細くなってザルの中へ落ちていく。そのころには先ほどの胸のモヤモヤは、あらかた姿を消してしまっているのである。
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